カゲロウ日記

日々の徒然。

Country of Paradox

次の日のテヘランは生憎の雨だった。

彼女(イラン人の同僚)はとてもFashionableだ。深緑のヒジャブとパンツを合わせ、深緑の石の指輪とよくマッチしている。ネイルはダークレッド。コートと鞄は黒で統一して引き算も完璧。その指輪とっても素敵ね、と言うと、「ありがとう。母がオーダーメードで作ってくれて、スペシャルなプレゼントなの。」とにっこり。完璧。

一つ面談が終わった後、彼女とイランの伝統料理屋が集まる地区へランチへ向かった。ドゥーグと呼ばれる酸味のきいたヨーグルトドリンクを飲む。初めは不思議な味と感じたが、脂身の強いケバブと非常に合う。暫く二人で談笑していると、軍隊のような服を着た店員がやってきて、とても深刻な顔つきで彼女に向かってペルシャ語で何かをつぶやいた。その後、彼女は後ろにずり落ちたヘジャブ(イスラムの女性が髪を隠すためのスカーフ)を両手で戻したので、私はてっきり宗教的な忠告を受けたのかと「髪のこと注意されたの?」と尋ねた。彼女は「anything more?って聞かれただけよ」と可笑しそうにケタケタと笑った。「昔はイラン人ももっと朗らかだったんだけどね」と。

革命以降、謂れのない逮捕を避けようと言動や服装に気を配るうちに、イラン人の顔つきは険しくなったらしい。数日前もPhillip Williamsの『Happy』を踊った動画をyoutubeでアップデートしたイラン人の若者数名が逮捕された。制裁が解除されても、経済は上向いても規制は緩和されないらしい。イランでは未だにfacebookにもtwitterにも規制がかかる。「首相はfacebookとtwitterもアカウントを持って自分の宣伝をしているのに、国民には規制を強いるなんて論理の破綻よね。The Country of Paradox (矛盾の王国)よ。」と呟いた彼女の横顔は凛としていた。

アバヤは雨を弾く。夜はホテル近くのDohan Cafeで1人で夕食。1階は普通のカフェだが、2階では若者が集い、ひっそりとタバコを嗜む。BGMにはMaroon5のShe Will be Lovedのボサノヴァカバーがかかり、Masala Teaは雨を浴びて冷え切った身体に染み渡る。イランにはドバイのようにクラブやバーがない。代わりに若者はなけなしのお金を叩いて高音質のスピーカーを購入し、友人を呼んで朝まで部屋でパーティを開くと、イランの日本人駐在員から聞いた。彼は部屋の隣から週末はどんちゃん騒ぎが聞こえてきて霹靂しているらしい。これもイランのParadoxの1つだろう。どこの国でも、若者は楽しみを見出すのが大得意だ。