カゲロウ日記

日々の徒然。

浅草さんぽ

浅草の神谷バーで19時、スニーカーに履き替えて集合ね、と友人は言った。

最近散歩にはまっている。

待ち合わせた神谷バーは、変わらぬ出で立ちでそこに存在した。明治13年創業、浅草一丁目一番地。明治時代に誕生したブランデーベースのカクテル、電気ブランで有名なバーだ。当時珍しかった電気は、”電気◯◯”というかたちで目新しいものに付けられていたようだ。

「電気ブラン、電気ブランサワー、電気ブランカクテル。」メニューの上から3つを注文する。電気ブランは甘みがあって飲みやすいけれど、30度と強く、飲み過ぎるとキケンなお酒。私は電気ブランサワーが一番好きだ。甘さに程良くレモンの酸味がきいて、さっぱりした舌触り。何もお腹に入れていなかったのですぐ首のあたりが真っ赤になった。

隣で大学教授らしいおじさんが、生徒と思しき3人に説教している。「おまえは人のことが見えていないんだ」、うんざりしてきたので20分ほどで店を出る。

「人のことが見えていないとでかい声で説教してるやつが一番人のこと見えてないな!」と友人は笑う。「 20年後、ああはなりたくないな」

 

仲見世通り商店街をどんどん歩き、浅草寺についた。

浅草寺では今年の初詣で揃いも揃って凶を引いたので、前を通るだけで立ち寄るのはやめた。「あのときは神田明神と浅草寺、欲張ってどちらも参詣したのが良くなかった」と友人は力説する。

神田明神は平将門の身体を祀る神社で、神田は(将門の)”身体”が由来という説もある。かつて神田明神は現在の御茶ノ水に位置する神田山山頂にあったが、江戸湾埋め立ての為に切り崩されると、山麓の現在地に移転した。

(ちなみに将門の首は現在、大手町のビル街の一角、三井物産オフィス隣の”首塚”にある。平将門の乱を起こし敗死した彼の首は京から故郷である東京へ持ち去られた為、仕事で僻地へ飛ばされたサラリーマンがお参りすると本社へ戻れるという噂もある。ちなみに首塚には、大きなガマガエルの石像が祀られている。「無事にカエル」という駄洒落のようだ。)

一方で、浅草寺は東京都最古の寺で江戸の都市構想の一環で結界を張ったとされることで、神田明神と相性が悪いという説があるのだとか。

 

そんな話をしながら仲見世通りを左折し、花やしき通りまできた。花やしきは入場料1000円で入れるが、貸切客のきゃあきゃあいう声が聞こえて入れない。近くには外国人バックパッカーが集うSakura hostelがあり、若者たちがカクテル片手に雑談をしたり、PCで作業をしていたりと、オープンな雰囲気だ。

アフリカ系の女性が花やしきの正面でポーズを決め、恋人と思われる男性がカメラを向けている。私たちが遮らないように立ち止まると、男性は「go ahead!」と言った。友人は通りすがりにおどけてカメラに向かってピースサインをし、カップルは嬉しそうに笑った。きっと陽気な日本人は珍しかったのだろう、友人はこの恋人たちの旅の思い出に貢献したのだった。「Such a funny sneaker!(超面白いモグリが写真に撮れたわ)」という声を後ろに聞きながら、sneaker with sneakers(スニーカーを履いたモグリ)だな、と笑った。

英語のスペル違いの話題で、神田に「crap dive shop」があるという話になった。そのダイビングショップのオーナーは、楽しいイメージで拍手喝采(clap)という意味合いでつけたつもりだったが、スペルミスでクソ(crap)ダイブショップとなってしまった。そんな小さなエピソードが集まって東京を作っていると思うと可笑しかった。

 

ロック座では、お笑い芸人のショーが始まろうとしている。ロック座は元はストリップ劇場で、ビートたけしが前座していたこともあったとか。そんなこんなで2時間ほどの長い散歩となった。何だか楽しくて、浅草から上野まで歩いて帰ったら、へとへと。